テンポスでは「土鍋」も取り扱っておりますが、今回は「土鍋」最大の特徴だと思われている耐熱性能の意外な事実について掘り下げてみます。使用する上での注意点もご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
土鍋の歴史
萬古焼を代表する焼物の一つに土鍋があります。
土鍋の歴史は古く、縄文時代に造られた土器にその起源はあります。生肉等を火にかけて、煮たり焼いたりすることに使われました。平安時代には鉄鍋も発明されますが、土鍋は現代に至るまで日本人の食卓で使い続けられています。それだけ歴史の古い土鍋ですが、昭和初期までの土鍋には致命的な弱点がありました。耐熱性能があまり高くなかったのです。
炭火等では耐えていた以前の土鍋も、時代の進化でガスコンロ等の高出力熱源の開発された現代では耐えられなくなってしまいました。
強火力でも耐えられる土鍋の誕生
そんな中、一部の萬古焼メーカーが試行錯誤の苦労を重ね、昭和34年についに強火力でも割れない土鍋の開発に成功しました。
土鍋が割れてしまう原因は熱膨張です。陶器も熱を加えると膨張しますが、直火にかけた場合、火が当たる部分と当たらない部分との温度差で熱膨張の差が出来てしまい、それが歪となって破損に至るのです。
この熱膨張を抑えるため、ペタライトという鉱物を40~50%ほど陶土に配合した、低熱膨張性耐熱陶土を開発したのです。
これにより、萬古焼の土鍋は全国に普及し、土鍋のシェアの殆どを占めるようになりました。今では土鍋だけでなく、その特性を生かしたさまざまな耐熱食器も作られています。この高耐熱性は世界に類をみない唯一無二の存在で、今では萬古焼は元より、伊賀焼、しがらき焼等の高耐熱商品を造っている産地でも使われています。
土鍋等、耐熱陶器製品の特性
土鍋を含む耐熱食器は、熱膨張しない低熱膨張性耐熱陶土で作られていますが、以下のような特性があります。
その特性を十分理解して使用する事が重要です。
●熱しにくく冷めにくい
土鍋等の耐熱陶土は熱伝導率が低く、熱しにくい反面冷めにくく保温性が高いという特性があります。
●遠赤外線効果が高い。
耐熱陶器は遠赤外線効果が高く、調理する素材の中まで熱が伝わりやすいのが特徴です。
●僅かな吸水性を持たしている。
耐熱性能を限界まで上げるために、若干の吸水性を持たせています。そのため、土鍋等の水炊きをする物には、初めに水止め処理をする必要があります。
また、天ぷら等大量の油を使う調理をしない、使用後は乾燥させる、等の注意も必要です。
土鍋と鉄鍋との違い
鉄鍋も古くから一般に使われていますが、その特性は土鍋とは違います。特に、熱伝導率が大きく異なります。土鍋は熱伝導率が低く、鉄鍋は熱伝導率が高いのです。熱伝導率が低い土鍋は、加熱時間はかかりますが蓄熱性が高く冷めにくい特性があります。遠赤外線効果も高く、水炊きや煮込みの料理に適しています。
陶板で調理した肉や野菜が美味しいのも、熱伝導率と遠赤外線効果のおかげです。土鍋、耐熱食器の特性を知った上で料理に合わせて正しく使っていただく事が大切です。
海外製の土鍋との違い
萬古焼で使っているペタライトを配合した低熱膨張性耐熱陶土は、日本で開発された陶土です。ペタライト鉱石はアフリカ産なのですが、海外ではペタライトを容易に手に入れる事はできません。そのため中国等の海外では、他のリチウム系の耐熱素材を使用しているのですが、その熱膨張率はペタライトに比べ高く、耐熱性能はペタライトには遠く及びません。何回か使用していく内に膨張、収縮を繰り返し、次第にもろくなり突然割れてしまったり、底が抜けてしまったりする恐れがあります。
業務用としての耐熱食器
業務用の土鍋ですが、素材、性能とも一般家庭用の土鍋と大きな違いはありません。いずれも食品衛生法の試験や熱衝撃等の厳しい試験を行い、生産しています。土鍋のデザイン、サイズ、価格を、料理や使用用途に応じてチョイスすれば良いでしょう。
現在は、従来の直火用土鍋に加えて、IH調理器にも対応できる土鍋も開発されています。鍋底にIH加工が施されている「一体型」と呼ばれるタイプや、「IH対応発熱プレート」を鍋底に敷いて使うタイプなどがあります。それぞれ一長一短ありますので、その特性を理解してから選んでください。
萬古焼の陶板、グラタン等の耐熱食器もほとんどは業務用として開発されました。例えば耐熱陶器製ビビンバ鍋等は石のビビンバ鍋の弱点である耐久性を高めた商品ですし、陶板等もその特性を生かし、熱い料理を熱いままテーブルに出すことを狙った食器です。
萬古焼の耐熱食器は調理する道具としての面と、そのままテーブルへという器の面を兼ね備えています。演出効果も狙えるアイテムと言ってもいいでしょう。
使用上で気をつける事
土鍋や耐熱食器にはその素材の特殊性により、いくつかの使用上の注意事項があります。
・土鍋は吸水性があるので、初めて使用する時には水止め処理が必要。
耐熱食器はそこまで気をつけなくとも良いです。
・食洗器で洗ったり、水に漬け置いて洗ったりしない。
水止め処理した土鍋でも側面、底面は吸水性があるのでなるべく本体に吸水させないように気をつけましょう。
・使用後はなるべく乾燥させる。
本体内部に水分が残っている状態で火にかけると、水分が水蒸気に変わり、急激に膨張し白く濁った状態で染み出てきたり、本体を傷めたりすることがあります。
その他、火傷の注意をすることや、天ぷら等の揚げ物調理をしない等の注意事項があります。
まとめ
最近は、原料や燃料費の高騰で物価が上昇しています。特に耐熱原料の値上がりは激しく、土鍋等は価格も高価格になっています。料理に合った土鍋をチョイスし、長期間使用できるように正しく取り扱う事が大事ですね。テンポスでのご相談も承ります!
取材協力:株式会社マルヨシ陶器