左利き用の包丁は、なぜ必要なのか

包丁に右利き用と左利き用があるのをご存知でしょうか? 右利きの方は、お店で売っているほとんどの包丁を使うことができるので、特別意識する必要はありませんが、左利きの方は注意が必要です。左利きの方が右利き用の包丁を使うととても使いづらいので、購入の際には確認が必要です。今回は左利き用の包丁について、明治33年創業の包丁製造販売会社、株式会社實光さんにうかがいました。

左利き用が必要なのは片刃の場合

包丁の構造には、片刃と両刃の2種類があります。両刃は、利き手に関係なくどなたでも使えます。問題は片刃の包丁です。

例えば刺身を切る場合、右手で包丁を使う人は、左手で食材を支え、右端から切ります。左手で使う人は、この逆で右手で支えながら左端から切りますよね。刃の向きがどちらになっているかで、切りやすさが変わってしまいます。右から切る場合は右側に刃が、左から切る場合には左側に刃がないと、食材が歯から逃げていく感じになります。

魚を捌く時も、右側から包丁を入れるか、左側から入れるかで、やはり刃の向きは変えるべきです。皮や骨から身をそぎ取るような場合、刃が下側にないと綺麗に削げません。無理矢理剥がし取るような感じになってしまいます。

ですから、右利きの人は右側に刃のある包丁を、左利きの人は左側に刃のある包丁を使わないと綺麗に切ることができないのです。

両刃包丁でも注意が必要

「刃付け」という言葉をご存知でしょうか? 昔の職人は、新品の包丁を買うと使用する前に、使用目的に合うように自分で研ぎ直しをします。お店の人に頼む場合もあります。それを刃付け、本刃付けなどと呼びます。

両刃包丁でも、1枚の鋼でできているようなものは刃付けができます。メーカーによっては、切れ味を求めて片刃風に刃付けをして販売している場合もあります。大抵は右利き用にしているため、購入時には注意が必要です。左利きの方は、左利き用の刃付けをする必要があるのです。

左利き用に刃付けをしたい場合は、購入時にそう伝えれば、ほとんどの専門店で対応可能だと思いますが、この場合も、右利き用の刃付けよりも費用がかかります。片刃風にこだわりがなければ、両刃の刃付けをすれば、追加費用なく左利きの方でもご使用できます。

新品の包丁は、欠けにくくするため、わざと鈍角、あるいはわずかに丸刃にしてあることがありますので、切れ味をよくするためには、両刃でも刃付けをした方がいい場合があります。お店で確認してください。

左利き用が高くなる理由

左利きの人は、全人口の約10%と言われてます。右利きの方が圧倒的に多いわけで、包丁職人が毎日作る包丁も基本的には右利き用になります。そうすると右利き用に慣れてくるのは当たり前で、左利き用をたまに作ろうとすると、いつもの右利き用と同じようにはできず、時間も倍以上かかってしまうのだそうです。和包丁の製造は、日本刀の刀鍛冶の技術を受け継ぐ繊細な作業です。いつもと少し手順が違うだけで、手間と時間がかかってしまい、その分、左利き用包丁は少しだけ価格が高くなっていること、ご理解いただけると業界関係者として私たちもありがたいです。

取材協力:株式会社實光